私たちがひとくくりに「イタリア料理」と呼ぶものは実に奥が深く、現地に行くと戸惑うこともあるかもしれません。古来、温暖な地中海式気候や肥沃な土地に恵まれて、長い歴史の中で変遷を繰り返してきたイタリア料理。実は通り一遍では理解できない複雑なところもあります。イタリア料理を種類分けして理解すれば、適材適所でより美味しい料理を食べることが可能になるかもしれません。
イタリア料理という食文化、より理解を深めるために今日はさまざまな種類分けをしてご紹介したいと思います。
目次
イタリアの3度の食事:朝食
イタリアの朝食。
これは非常にシンプルです。たいていは、カップチーノとコルネット(北部に行くとブリオッシュという名称に変わります)という甘いパンだけです。
外国人観光客用に、ホテルの朝食にはチーズやハムやヨーグルトも供されていますが、一般的なイタリア人の朝食は基本的にコーヒーと甘いものであることが大半です。
自宅で朝食をとらずに、バールで常連さんたちとともに立ってカップチーノとコルネットを口にする姿はイタリアの朝の風物詩。
朝食に飲むコーヒーにのみミルクを入れるのが一般的。
その後、ブレイクタイムや昼食後のコーヒーはエスプレッソをベースにしたものになります。
朝食のコーヒーとして最も人気のカップチーノですが、人によってはミルクの量が異なるラッテマッキャートやカフェラッテもあり。バールの常連となると、頼まなくてもいつものカフェが出てくることがあります。
コルネットは、いわゆる日本のクロワッサンを中心に、チョコレートやクリーム、はちみつやナッツ類などを使ったかなりカロリーの高めのものが目につきます。
いま日本ではやりのマリトッツォは、ローマを中心にした地域の朝食として知られています。
イタリアの3度の食事:昼食と夕食
イタリアの昼食と夕食のバランスは、日本のそれと似通っています。
つまり、昼食か夕食いずれかにボリュームのあるものを摂取し、それ以外は軽食で済ますというスタイルです。
イタリアでは本来、昼食に重きをおいて前菜、プリモピアットと呼ばれる一皿目(パスタやリゾットなど)、セコンドピアットと呼ばれる二皿目(肉や魚など)、つけあわせ(野菜)、デザート、コーヒーと続く料理を摂っていました。
この食事にはもちろんワインを欠かすことはなかったため、19世紀までのエリート層は午後の3時ごろまで仕事をし、このボリューミーな昼食で1日を終えるというライフスタイルであったそうです。
戦後、イタリアのライフスタイルも変わり、昼食後も午後の仕事をこなすようになりました。
そのため、現代のイタリアでは一般的に昼食が軽食、夜にしっかりとした食事という形態へと変化しています。
イタリアにおける軽食の種類
イタリアの軽食にはどんな種類があるのでしょうか。
イタリアの軽食代表といえばまずピッツァがあげられます。仕事の合間であれば、ピッツェリアと呼ばれるピッツァ専門のレストランよりも、切り売りのピッツァ屋で量り売りされているものを買う人が多いかもしれません。
この切り売りピッツァは完全にファーストフード感覚、購入したピッツァをそのまま店内で食べたり、人によっては歩きながら食べることも。好きな種類を好きな量だけ切ってもらえるため、食の細い日本人にも向いた様式といえます。
ピッツァを売る店には、ライスコロッケやオリーブのフライなど揚げ物も充実しています。
テーブルで丸いピッツァを食べるピッツェリアは、昼間は釜に火が入っていないこともあります。本場のピッツァを食べたい場合には、夕食に回すのが無難かもしれません。
軽食の代表としては、パニーノもそのひとつ。
最寄りのバールに行くと、昼食時にはさまざまな種類のパニーノが並びます。チーズ、サラミ、野菜がさまざまなコンビネーションで売られています。
パニーノのパンは大概は固め。サンドイッチを売っているバールも多く、固いパンが苦手な人はこちらを選びます。
このパニーノ、通常の食料品店で購入することも可能です。まずパンの種類を選び、切れ目を入れてもらって中身に入れるチーズやハム類を選びます。旅行中であれば、食料品店の店員に地元産やおすすめの食材を尋ねるのも一興。
昼食時のバールには、作り置きのパスタやお総菜も売られています。
作り置きですから、もちろんレストランの味には及びません。ただ、家庭的な味を楽しむことは可能です。時間を置くと味が落ちてしまうカルボナーラやチーズが固まってしまうパスタは避けるべきですが、ライスサラダや揚げ物などはレベルの高いお店も多々あります。
イタリアにおけるフォーマルな食事
近年のイタリアでは現代病ともいうべき肥満が問題になりつつあり、毎日前菜から始まるフォーマルな食事を摂ることはまれになりました。自宅では、プリモピアットであるパスタ類とセコンドピアットである肉や魚の両方を食べることはまれです。パスタ類か肉・魚いずれかを食べて、野菜やパンで済ませることがほとんどです。
ただし、結婚式などのイベント時や週末の外食となると、伝統に忠実にしっかりと食べて食を堪能するのです。
その時間のかかること、まず半日はつぶれることを覚悟する必要があります。
フォーマルなイタリア料理の内容を、種類で分けてみましょう。
前菜
イタリア語では「アンティパスト」と呼ばれる前菜には、さまざまな種類があります。
最も一般的なのは、チーズやサラミ、生ハムなどの盛り合わせでしょうか。
たいていは地元産のこうした食材が、前菜として盛られてきます。
それ以外にも、レバーのパテであったり揚げ物だったり卵焼きがあったりと、種類は無数に存在します。
大人数で食卓を囲む場合には、レストラン側が適当に見繕って運ばれてくることも多い前菜、あまりに美味しくて食べ過ぎると胃袋が次の料理を受け付けなくなってしまうので要注意。
プリモピアット(一皿目)
日本人が頭に浮かべるイタ飯のイメージは、このプリモピアットと呼ばれる一皿目のメニューに多いのではないでしょうか。
プリモピアットは、パスタやリゾットなど炭水化物を主原料にした料理で構成されています。また、パスタの中にひき肉を詰めたトルテッリーニ、チーズやホウレンソウを詰めたラビオリ、オーブンで焼いたラザニアなどなど、プリモピアットの種類も数えきれないほどあるのが実状です。
日本では「イタリアン」とひとくくりにされるこうした料理は、実はイタリア国内のそれぞれの地方の郷土料理です。
世界で最も愛されているといわれるカルボナーラは、ローマを州都にするラツィオ州の郷土料理。ラツィオ州で産するペコリーノと呼ばれるチーズとグアンチャーレと呼ばれるベーコンが、カルボナーラの基本の基です。
また、リゾットは概して北イタリアで食べられることが多い料理です。コメの生産が適しているのはイタリア北部であることがその理由。サフランを使った黄色が特徴のリゾット・アッラ・ミラネーゼは、その名のごとくミラノの郷土料理というわけです。
鮮やかな緑色がうつくしいバジルソースは、港町ジェノヴァの代表。
こうした料理を郷土料理とする地域以外で食べたいと思っても、メニューにはないことを覚えておくとよいかもしれません。
地中海の太陽と乾いた空気が特徴のイタリア南部では、パスタも乾燥されたタイプが主流です。いっぽう、日照時間が南部ほど多くない北部では、卵を使った生のパスタが多くなります。そのため、肉詰めのパスタであるトルテッリーニはボローニャを中心とした北イタリアで美味しく食べることができるのです。
パスタの形状ですが、これはイタリア人でさえも把握しきれないほどの種類があります。一説には、その種類は500以上とも。
日本ではスパゲッティがダントツの人気ですが、イタリア人はソースが絡みやすいショートパスタを愛する人が少なくありません。そのため、たとえばカルボナーラを注文する場合も「メニューにはスパゲッティとなっているけど、リガトーニに変えてくれない?」と要望を伝えるシーンもよく見かけます。
また、名前を聞いただけではイタリア人も想像不可能なマイナーなパスタが、地方のレストランやトラットリアで普通に登場します。そんな場合は、イタリア人も「これはどんなパスタ?」と正直に尋ねます。
パスタのソースによく合うパスタの形状であることが多いのですが、気になる場合は質問して納得してから注文するのがベターです。
パスタの味をつける調味料も、北と南では種類が異なります。
北イタリアへ行くほど、バターをはじめとする乳製品の配合量が多くなる傾向があります。ローマ以南では、料理にバターを使うことはめったにありません。
セコンドピアット(二皿目)
セコンドピアットは、肉や魚を中心にしたメインディッシュです。
イタリアでは一般的に、肉と魚の双方を提供するレストランはそれほど多くありません。魚料理のレストランは、それを専門にすることをうたっている場合が多いのです。通常は、魚料理のレストランのほうが価格が上昇する傾向にあります。
イタリア料理のメインディッシュとして頭に浮かぶのはなんでしょうか。
プリモピアットと同様、セコンドピアットも郷土色が強いのがイタリア料理の特徴です。
ローマならば子牛の肉に生ハムを重ねたサルティンボッカが有名ですし、ミラノならば薄いカツレツなどがその好例です。フィレンツェに行けば、ビステッカ・フィオレンティーナと呼ばれる骨付きの豪快なステーキが知られていますし、北イタリアのピエモンテ州に行けばボッリートと呼ばれる肉や野菜の煮込みが典型的なメインディッシュです。
また、季節やイベントによっても、登場するメインディッシュの種類が変わる傾向があります。
クリスマスイブの12月24日の夜のメインディッシュは魚介類、復活祭には子羊のオーブン焼きなどなど、数え上げれば枚挙にいとまがありません。
イタリア料理のメインディッシュの特徴としては、よほど星付きのレストランを選ぶでもないかぎり、とてもカジュアルで親しみやすい料理が多いことにあります。
そのため、大皿の中心にお行儀よく食材が乗せられてくることはまれで、通常は唖然とするほどの量が盛られてくるのです。
つけあわせ
メインディッシュとともに運ばれてくることが多いつけあわせは、イタリアでは「コントルノ」と呼ばれています。
これは野菜料理で、サラダをはじめグリルや揚げ物であることも。
つけあわせも、その土地の特徴や季節が大いに反映されます。
通年で人気のつけあわせといえば、ポテトのオーブン焼きや野菜のグリルでしょうか。
季節感というのならば、アーティチョークやインゲンマメなどがあります。
また、ローマならばチコーリアやプンタレッラといった日本ではあまり知られていない野菜がメニューにあることも。
つけあわせは、レストランやトラットリアでも「その日のメニュー」として紹介されることが多いのも特徴です。仕入れた旬の野菜が調理されるという事情があるためです。
つけあわせもまた、ほかの料理同様にかなりの量がお皿に盛られてきますので、気軽なトラットリアであれば会食者とシェアすることも多々あります。
デザート
どんなにお腹が膨れていても、デザートはパスできないというのは万国共通。
イタリアのデザートとしてよく知られているのは、ティラミスやパンナコッタでしょうか。
この2つは、イタリア全土でほぼ定番としてメニューにおける登場頻度も高いデザートです。
きちんとしたレストランやトラットリアならば、自家製のものを供するのが常識。注文する際には、「自家製ですか?(L’avete fatto voi?)」と聞いて確認するのがよいでしょう。観光地のレストランでは、業者から大量生産したものを購入して供することもあるためです。
そのほか、メニューでよく目にするデザートとしては「クロスタータ」と呼ばれるタルト、クレームブリュレなどがあります。
郊外のレストランやトラットリアでは、「おばあちゃんのケーキ」と呼ばれる素朴なデザートがあったり、シチリアには名産のリコッタチーズを使ったカンノーロ、トスカーナにはワインに浸けて食べるカントゥッチなどもあり、場所や季節によってデザートも変化します。
食後のコーヒー
これだけの量を食べた後には、眠気覚ましのコーヒーが必須というイタリア人がほとんどです。
食後のコーヒーは前述したとおり、日本ではエスプレッソと呼ばれるタイプ。好みで、ミルクや砂糖を入れて飲み干します。
食後酒
下戸が少ないイタリアでは、食事中にワインをたしなむのが普通です。そして食後には、消化を促すといわれるアルコール度数の高い食後酒を飲みます。
食後酒も種類が多いのですが、グラッパ、リモンチェッロ、アマーロなどが人気の食後酒です。
レストランの種類も重要!
イタリア料理を食べる場合には、レストランの種類を見極めることも大事な要素です。
身だしなみも整えて入店したいリストランテでは、郷土料理というよりは洗練された創作料理がメニューに多いのが特徴です。
トラットリアは最も郷土料理が美味しく食べることができるレストランですが、ピッツァはメニューにはありません。
そのときの状況や価格なども考慮して、食べる場所を選択するとよいかもしれませんね。
知識だけでなく、イタリア料理でお腹も満たしたくなったときは、外食もありですが、自宅にイタリアンのシェフを呼んで目の前で調理してもらうというのはいかがでしょう。シェフくるにはイタリアンの有名シェフも多数在籍。サイトでシェフを選んで日時を指定するだけで簡単にご利用いただけます。