イタリア料理のお店を探している時に気になるのが、店名の前後についている「リストランテ」や「トラットリア」といった言葉です。イタリア料理店にはいくつかのカテゴリーがあり、リストランテやトラットリアはその店が属するこのカテゴリーを意味します。
それぞれのカテゴリーについては後述しますが、外観だけでカテゴリーの相違が顕著なこともあれば、ぱっと見ただけでは区別がつかないこともあります。「リストランテ」や「トラットリア」とそれぞれ名乗っていればわかりやすいのですが、そうとばかりはかぎらないからです。
入店するとなると、服装や価格が気になります。イタリア料理のカテゴリーを理解しておけば、こうした悩みをある程度解決することができます。
この記事では、イタリア在住の筆者の視点で、イタリア料理を供する「リストランテ」と「トラットリア」の違いを説明してみたいと思います。
目次
イタリアに存在するさまざまなカテゴリー
世界中で愛されるイタ飯(イタリア料理、イタリアン)の本拠地イタリアには、それを食べるための場所がいくつかのカテゴリーにわけられて存在しています。
主なカテゴリーは以下の通りです。
- リストランテ
- トラットリア
- オステリア
- タヴェルナ
- ターヴォラ・カルダ
一般的には、上から下に行くほど、安価で庶民的なお店というのが常識になっています。
近年は、このカテゴリーの境界線もあいまいになっていることが多いのですが、まずはリストランテとトラットリアについてご説明いたします。
トラットリアとリストランテ、それぞれの語源
まずは、それぞれの語源から見ていきましょう。
「トラットリア」は、フランス語で「総菜屋」を意味する「traiteur」から派生しているという説や、ラテン語で「準備する」という意味の「tractare」という言葉に由来しているという説などがあります。いずれにしてもその軽やかな響きは非常にイタリア的で、イタリア人には最も馴染みのある食事をする場所の名称です。
「リストランテ」は、フランスで1700年代終わりに生まれた「restaurant」をイタリア語化したものです。英語ではもちろん「レストラン」ですね。
地元密着型が基本の「トラットリア」
イタリア国内で最も目にするのがトラットリアです。
「トラットリア」をイタリア語の百科事典で引いてみると、
前菜からデザートまで一通りの食事ができる施設。レストランほど高級ではない。ホテル、駅の構内、船内では、レストランでもトラットリアと名乗ることがある。
とあります。
典型的なトラットリアは、地元の食材を使った庶民的な料理が供されることが大半です。
たとえば、カルボナーラのパスタを食べたいと思ったら、これを郷土料理としているラツィオ州のトラットリアに行くことで最も美味しく食べることができます。バジルペーストのパスタであれば、ジェノヴァを州都とするリグーリア州のトラットリアがベストといった具合です。
ちなみに、私たちが一般的に「イタリア料理」というカテゴリーでひとくくりにしているメニューは、イタリア国内では郷土料理であることが多く、イタリアならばどこでも食べられるというものではありません。
トラットリアでは、あわせて飲むワインも地元産のものを選ぶお客さんが多いようです。
瓶で用意されていれば高級なほうで、もっぱら水差しのような容器に入れられた量り売りのワインを豪快に飲みます。
地元の美味しい食材を使った家庭的な料理というわけで、台所を仕切るのも高名なシェフではなく、いかにもイタリアンマンマといった風情の女性であることも珍しくありません。
価格もそれに見合ったものであり、リストランテのような高額になることはまれです。食事とワイン双方で、1人当たりの値段が50ユーロ(執筆時のレートで約6,500円)を超えることはほぼないといってよいでしょう。
もちろん、時と場合によりますのでこれはあくまで目安です。
洗練された料理ならば「リストランテ」
リストランテは、イタリアで食事をする場合には最も格が高い食事が供される場所を指します。
料理そのものが洗練されているだけでなく、店内のインテリア、ナイフやフォークの質、サービスのありかたなども一流であるのが通常です。
トラットリアが常連客で埋まることが多いのに対し、リストランテは結婚式や洗礼式などイタリアにおける改まった機会に使用されることが多いのもこうした事情があってのことでしょう。
リストランテといってもピンからキリまでありますが、イタリア国内ではカリスマシェフとして知られるマッシモ・ボットゥーラやカルロ・クラッコが経営するリストランテともなると、1人当たりのお値段は110ユーロ(約14,000円)からといったところ。上を見ればまさに天井知らずのお値段がついています。
リストランテで飲む場合は、ワインもそれなりのブランド力のあるものが多いのが特徴です。
トラットリアとリストランテ、それぞれのルールを知る
庶民的な雰囲気のトラットリアは、服装に関しても目くじらを立てられることはありません。
つまり、旅行中の軽装でふらっと入っても、地元の常連客と混ざってにぎやかな雰囲気の中でリラックスして食事をすることができます。
一方リストランテは、予約をしてそれなりの服装で赴くのが暗黙のルールです。軽装で行ったからといって入店を拒否されることはありませんが、お店の格に合わせて身だしなみを整えるのが礼儀とされています。
あいまいになるカテゴリー間の境界線
リストランテとトラットリアにはこのような違いがありますが、近年はこうした境界線もあいまいになりつつあります。
トラットリアと名乗っていてもレストラン並みの価格になる場合も珍しくなくなってきました。常連さんたちが安価に楽しむおふくろの味といった趣の本来のトラットリアのほかに、地産地消やヴェジタリアンにも対応したトラットリアが増えてきたという新事情も挙げられます。
日本においても、高級志向でドレスコードのあるイタリア料理店がトラットリアと名乗っていることもめずらしくありません。
これはリストランテについても同様。
ローマなどの観光都市では、観光客に「レストラン」という言葉を想起させるリストランテが多いのですが、実際に入ってみるとカルボナーラやアマトリチャーナが定番メニューのトラットリアであることも多々あります。
場合によっては、リストランテとトラットリアが同じ経営者によって運営されていることもあります。現在はオンラインでもメニューや価格、それぞれのお店の特徴を見ることができる可能性が高いので、状況に合わせて食べる場所を選ぶのがよいですね。
レストランやトラットリアに入店する際の注意点
一時期、イタリアの観光都市におけるぼったくりが話題になりました。
正規のレストランやトラットリアであれば、営業中は外にメニューが置かれているのが一般的です。
店内に入る前にメニューを見て価格を確認し、パスタ類の値段が10ユーロ前後であればトラットリアという認識で問題ないことが多いでしょう。
逆に、前菜の値段が一皿20ユーロ前後である場合は店の雰囲気なども考慮して、予約や服装に気をつける必要があるかもしれません。